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会計コラム

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会計システムとAI

柳原 寛

2016.10.18

今、人工知能(AI)が大変なブームになっています。新聞紙上でもAI関連の記事を毎日ののように目にします。私は長年、会計システムに携わってきましたので、そのような記事を読むたびに「会計システムではどうなのだろう?」と考えていました。そこで今回は会計システムとAIの関係について整理してみたいと思います。

1.なぜ今AIか?

そもそも人工知能(AI)とはなんなのでしょうか?ウィキペディアでは以下のように定義されていました。

 "人工知能(じんこうちのう、英: artificial intelligence、AI)とは、人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す。"

"人間と同様の"というと、鉄腕アトム(例えが古い?)のような存在を思い浮かべると思います。しかし、一般的にAIプログラムというと、限定的なタスクを人間のように自己学習し処理するプログラムを指すことが多いです。例えば「画像認識」や「将棋」といった特定のタスクを処理するプログラムです。このようなAIは昔からあったのですが、現在は「ディープラーニング」と呼ばれる手法の登場により性能が飛躍的に向上し、第3次AIブームと呼ばれています。「ディープラーニング」と、これまでのAIとの違いを簡単に説明すると、これまでのAIが自己学習によりパラメータ値の精度を上げて行くのに対し、「ディープラーニング」ではそのパラメータを何にするかまで自己学習していくというところに違いがあります。例えば将棋で言えば、今までのAIプログラムでは、各駒の強さ、駒間の位置などのパラメータを人間が設定し、そのパラメータの最適値を大量の棋譜データを取り込むことにより自己学習して決めていました。そのため、人間の設定するパラメータ値が非常に重要な要素でした。しかし「ディープラーニング」では大量の棋譜データからパラメータ値そのものをどう設定するかも含めて自己学習することができるようになったのです。

2.会計システムとAI

さまざまな分野で適用が始まっているAIですが、会計システムではどうでしょうか?
現在、「クラウド会計ソフトFreee」やワークスアプリケーションズの「HUE」といった会計システムがAI搭載と謳っています。ただ、必ずしも「ディープラーニング」を使っているという訳ではないようですが・・・。

私の知る限りの会計システムへの現時点の適用機能は以下の通りです。

(1)自動仕訳機能
 インターネットバンキングの情報や請求書などの画像データからAIが自動的に仕訳を起票する機能。
(2)入力補助機能
 人間が仕訳を入力する際に、過去の入力データ情報からAIが入力候補を自動的に提示し入力をサポートする機能。また入力の誤りなどを検知して知らせてくれる機能。
(3)サジェスト機能
 人間が次にやるべき作業をAIが判別し、候補を提示してくれる機能。

これらの機能は、これまで人間が会計システムに対して手で行っていた入力や検索の作業をAIで省力化することや正確性を高めることを目的としています。

将来的には会計監査の場でAIを活用するなど、適用範囲は拡大可能なのではないかと思います。例えば、会計監査の際に監査員がAIソフトを利用して不正取引を検知する、といったことができるようになるかもしれません。しかし、これを実現するためにはある企業1社だけのデータ蓄積ではダメで、多くの企業の会計データを収集しておかなければなりません。一方でこれを実現するにはクラウドサービスである必要がありますが、他社の会計データを学習材料にしてある企業に提供することが倫理的、セキュリティ的に問題ないのかといった議論があるでしょう。

また自動仕訳、入力補助機能、サジェスト機能などの省力化、正確性を目的としたAIの使用についても問題がない訳ではありません。大変便利な機能ではありますが、AIの利用が一般的になればなるほど、AIが自動起票や入力補助してできた伝票に対して、人間の確認がおろそかになる可能性があります。「AIが起票したなら恐らく正しい」「AIがサジェストしないならやらなくてもいいのだ」といった思い込みが人間に生まれるかもしれません。しかし最終的に責任を取るのはあくまでも人間です。

これはAI全般に言えることですが、AIが誤りを起こした場合、その原因を突き止めるのは困難です。なぜならAIは自己学習してパラメータ値もしくはパラメータそのものを決定していきますので、通常のプログラムと違い、AIの判断結果はわかっても、なぜそう判断したかはブラックボックス化されてしまうからです。

今のAIブームはまだ始まったばかりです。なんとなくAIであれば自己学習してなんでもできそうなイメージはありますが、あくまでもプログラムです。現状の会計システムに対しては省力化、正確性の向上といった限定的な機能への適用プログラムという位置づけです。しかし将来的にはAIがもっと進化して、監査や経営判断に関わるような事ができるなど、さらに想像もつかないような適用がなされるかもしれません。
しかし、そこに至るまでは運用上の課題や倫理的な問題もクリアしていく必要があります。いずれにしても、ブームに踊らされるのではなく、AIプログラムの本質を理解し、冷静に判断していく必要があると感じます。

著者プロフィール

柳原 寛

法人事業本部 ビジネスソリューション第2部 部長

ERP会計コンサルタントとして、電力、通信、不動産、金融など多岐に渡るお客様へERPを導入してきました。現在はERP部門のマネージャとして、OracleEBS、SAP、Biz∫(ビズインテグラル)といったERPと様々な周辺システムを組み合わせた会計トータルソリューションをお客様へ提供しております。



※ 所属部署・役職は2021年3月以前のものです

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