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中央銀行デジタル通貨 (CBDC) でイノベーション爆発? ―CBDCとは何か、そして何が起きるか―

樋口 大志

2022.02.16

本コラムでは私の研究課題*1である「暗号技術」のユースケースの一つとして注目されている中央銀行デジタル通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)を取り上げたいと思います。読者の皆さまもニュースなどで耳にされたことがあるのではないでしょうか。金融機関向けシステム開発や運用に長年携わっている当社の立場としても、当領域に大きなインパクトを与え得るCBDCは無視できないものなので、動向を注視しています。今回は日本を含め世界的に導入検討が行われているCBDCについて、背景と世界的な潮流、導入によりどのような影響があるのかを見ていきましょう。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは

CBDCとは中央銀行が発行するデジタルな通貨を指す言葉です。日銀によるとCBDCは次の三条件を満たすものを指します。*2

1.デジタル化されていること
2.円などの法定通貨建てであること
3.中央銀行の債務として発行されること

CBDCが導入されると、スマートフォンを用いたセキュアなデジタル通貨の高速決済、低コストな国際送金などが実現し、既存金融システムよりも利便性の向上が見込まれます。似たユースケースを持つ技術にはブロックチェーン技術による暗号資産(仮想通貨)が考えられますが2、 3の条件を欠くため、日常の決済手段としては信頼性や使用性が劣るものが多いのが現状です。対して、中央銀行が発行するマネーであればデジタルでありながら物理的な通貨と等価な信頼性を備えられる点に強みがあります。

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背景と世界各国の取り組み

世界各国では既に実現へ向けさまざまな検討や実験が実施されています。各国がCBDCの発行へと舵を切ったのは、ビットコインなどの暗号資産の台頭やフェイスブック社(現・メタ社)の「リブラ(現:ディエム)構想」による民間デジタル通貨発行計画で議論され始めた、既存金融システムの問題も影響しているでしょう。問題とは、例えば現金融システムではクロスボーダーでの送金や支払い時の手数料が高い、時間がかかる(着金までに日数を要する)ことなどが挙げられます。とりわけ少額送金の場合は特に手数料の問題が深刻です。外国人労働者が本国へ給与を送金するケースなどを考えても高い送金コストは解決すべき社会課題です。また、デジタル通貨にはCBDCの他に暗号資産もありますが、上述した安全性の問題のほか、テロやマネーロンダリング対策(AML/CFT)の問題も浮上しています。それら課題への対処とCBDCのもたらし得る経済的な恩恵がCBDC導入への原動力になっています。そして既に、導入するかしないかという検討フェーズは終了し、CBDC開発導入に向けた国家間競争が水面下で繰り広げられているように見えます。
当コラム執筆現在、中国はデジタル人民元をいくつかの都市で2000万人規模のテストを実施するなど、予定している2022年の正式発効に向け概念実証を加速させています。また欧州中央銀行もデジタルユーロの導入を進める方針を明らかにし、昨年10月の主要7カ国(G7)財務相・中銀総裁会議ではCBDCの共通原則がまとめられました。カンボジアやバハマなどでは先進国に先駆けて既にCBDCを導入しています。この流れを受けて日銀も昨年に基本機能の概念実証に着手しており、今年2022年には現金との交換や民間の決済システムとの連携を検証する実証実験に移行する方針を示しています。このようにCBDC構想実現への流れは急激に加速しています。

CBDC実現の影響

CBDCにはさまざまな利点・ユースケースが存在します。先ほど挙げたデジタル化による送金や決済手数料の低減は各国民全員が広く恩恵を受けられます。とりわけクロスボーダーの少額送金は時間的・金銭的コストが大幅に抑えられるでしょう。その結果、日本の労働力人口不足の解消策の一つである外国人労働者の割合にも影響する可能性があります。また、プラットフォームとしてのCBDCは金融業界を中心に広くイノベーションの土壌となるでしょう。特定の組織が発行する電子マネーとは規模も質も異なるCBDCは、これまでにない新規ビジネスを創出するチャンスといえます。また、デジタル円で導入されるかはまだ不明ですが、デプロイされたプログラムを自動実行可能なスマートコントラクトがCBDC基盤に組み込まれた場合、多くの業務の効率化を超えたイノベーションが生じる可能性があります。仮にスマートコントラクトを CBDC自身が備えていなかったとしても、近年目覚ましい発展を見せている暗号資産に代表されるブロックチェーン技術(スマートコントラクトもその一つ)との潜在的相性は極めて高いと考えられます。最近話題になっている仮想世界(メタバース)技術とも相性が良く、イノベーション爆発が起こるのではないかと私は予想しています。

まとめ

今回はCBDCの背景と近年の動向、そして利点とユースケースや想定される影響についてご紹介しました。今後も後の数年~十数年の間に来るであろうCBDCの実現や私の研究領域であるブロックチェーン・暗号技術の進歩に伴うイノベーションおよび新規ビジネスのチャンスについて、適宜本コラムにて発信していきたいと思います。

*1 2022年2月現在、情報セキュリティ大学院大学博士後期課程に所属し、暗号技術・ブロックチェーンを研究しています。
*2 日本銀行 公表資料・広報活動 「中央銀行デジタル通貨とは何ですか?」
  https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c28.htm/

著者プロフィール

樋口 大志

技術開発部

オープンイノベーションの先導役となるべく組成された技術開発部に所属する傍ら、情報セキュリティ大学院大学に籍を置き、産学連携や研究活動に従事しています。
「暗号技術」「ブロックチェーン」などの領域をターゲットに次世代サービスの創出を目指して奮闘中です。

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