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COLUMN

業務効率化

金融業界における生成AI活用 前編
松尾研究所に訊く!生成AIとは、活用のトレンド

2024.11.19

2012年にディープラーニングが従来の手法を大きく上回る画像認識精度を実現したことがきっかけとなり、第3次AIブームが到来しました。それから10年が経過し、画像認識や翻訳、音声認識など、さまざまな分野でAIが活用されるようになりました。AIは日進月歩で進化を続けていますが、特に2022年11月に公開されたChatGPT以降の生成AIの進化には驚くものがあります。最新の生成AIは、言語だけでなく画像や音声なども扱えるようになっており、生成AIを業務に活かすことで、業務効率や生産性の大幅な向上が可能になります。さくら情報システムでは、生成AIとAI OCRを組み合わせたデータ化ソリューション「AI TextSifta」を開発し、現在、金融機関を中心に多くの引き合いをいただいています。

そこで、AI研究及び社会実装のフロントランナーである、株式会社松尾研究所 金剛洙氏に、生成AIのトレンドや生成AI活用のポイントなどについて、お話をお伺いしました。その内容を元に、金融業界の業務現場における生成AI活用について、前編と後編の2回に分けて解説します。

プロフィール
金剛洙氏

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株式会社松尾研究所 取締役 執行役員 / 経営戦略本部ディレクター
株式会社MK Capital 代表取締役社長CEO・マネージングパートナー
PLUGA AI Asset Management株式会社 執行役員
金融庁特別研究員

東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻修了。2020年より、松尾研究所に参画し、機械学習の社会実装プロジェクトの企画からPoC、開発を一貫して担当。その後、社内外の特命プロジェクトを推進する経営戦略本部を立ち上げ・統括。また、AI・知能化技術の応用により成長の見込めるベンチャー企業への投資に特化したVCファンドを新設し、代表取締役を務める。松尾研究所への参画以前は、シティグループ証券株式会社にて、日本国債・金利デリバティブのトレーディング業務に従事。2023年より、金融庁特別研究員として生成AIと金融について研究。


●生成AIの本質は「情報変換能力」

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株式会社松尾研究所 金剛洙氏


最近、生成AIがニュースでよく取り上げられています。生成AIの本質とは何でしょうか。
AI(人工知能)は、人間と同様の知識を実現させようという取り組みやその技術の総称であり、非常に広い概念です。AIの一分野に特定のタスクやトレーニングによって学習を行う機械学習があり、機械学習の一分野としてディープラーニング技術があります。生成AIは、ディープラーニングの一分野であり、プロンプトと呼ばれる命令文に従って、文書や画像を新たに生成することが特徴です。
生成AIは、非常に多くの言語データを使って学習を行った大規模言語モデル(LLM)によって実現されています。2022年11月に米国のOpenAI社がLLM(GPT-3.5)をベースに人間にとって自然な応答になるようにチューニングを施したチャットボット「ChatGPT」を公開しました。ChatGPT以前や以後にも生成AIによるチャットボットを開発・公開したベンダーはありました。しかし、Post-trainingと呼ばれる、言語や知識を学んだAIに特定の入力や出力結果を学ばせてタスクに適応させるプロセスが不十分だったこともあり、差別的発言を繰り返すなどトラブルが多発し、サービス中止に追い込まれました。その後に公開されたChatGPTは、さまざまな質問や指示に対して自然な回答を返してくれると大きな話題を集め、公開からわずか2か月で、アクティブユーザー1億人を達成しました。このユーザーの増加スピードは史上最速です。ChatGPTはその後もベースとなるLLMの世代交代に伴って進化を続け、最新のGPT-4o(注:2024年5月リリース)では、言語だけでなく画像や音声なども同時に扱えるマルチモーダル生成AIへと進化しています。

AIと生成AIの関係

AIと生成AIの関係

生成AIの本質について、金氏は「情報を変換する能力にある」と説明しました。
「我々の普段の仕事の多くは、情報変換だと思っています。会社でメールを書くときは、受信したメールを読んで、どういう返信をすべきか考えます。これはある種の情報変換をしているわけです。人間も既存のプログラムも、情報変換をする一主体といえます。ただし、人間はあらゆる情報を変換できますが、従来の機械はあるインプットを特定のアウトプットにしか変換できませんでした。一方、ChatGPTは人間のようにあらゆるインプットを受けとって、幅広くアウトプットを出せるので、人間の代理としてビジネス用途に導入され始めています」

金氏は、生成AIの進化について大きく2つの方向性を挙げています。1つは、スマートフォンのような身近なデバイスにLLMが搭載されることです。既に一部実現していますが、例えば、スマートフォンにパーソナライズされたLLMが搭載されることで、常に自分専用コンシェルジュを持つような世界が実現します。もう1つの方向性は、生成AIが様々なタスクを実行してくれるAIのエージェント化です。まずはデジタルの領域で様々な実装が進んでおりますが、今後はさらに現状の生成AIが苦手とする現実空間における行動生成も進化するでしょう。例えば、ロボットに新たな生成AIが搭載され、ガラスのコップに入った水をこぼすことなく口に運ぶなど、人間が普段無意識に判断して行っているような、自然な行動の実現を目指す研究が行われています。

●生成AIが与えるDXへのインパクト

生成AIは、日本の社会に大きな影響を与えつつあります。ChatGPTを運営するOpenAIへのアクセスシェアでは日本は米国、インドに次いで2023年5月時点で第3位です。日本で生成AIが広く利用されるようになっておりますし、AI系の海外企業が積極的に日本へ進出してきていますがこの理由は、大きく3つあります。1つ目は、高齢化が急速に進む日本での労働力の不足です。政府もAIの技術開発の後押しをしています。2つ目は、グローバルから見た人件費の安さです。特に海外企業にとって、優秀なAI人材を日本で雇用しやすくなりました。3つ目は、大企業のDX余地が大きいことです。日本には世界的な売上げを誇る企業が数多くありますが、DXが遅れています。日本のGDPは、米国の16%ですが、DX導入の余地については、米国を100とすると日本は37であり、DX導入の余地が大きいと言えます。こうした背景によって、生成AIの活用は今後も増えると予想されます。

各国のDX導入の余地

各国のDX導入の余地

上図の横の長さは各国のGDP、縦の長さはDX未実施企業の割合を示す。
青色の面積はDX導入の余地を示す。

●アプリケーションレイヤーを主戦場とする日本のAI企業

日本のAI企業の生成AI開発に対する取り組みについて、金氏は米国とはスタンスが異なると指摘します。

「米国はOpenAIやGoogleなどビッグテック企業が多額の投資を行い、大規模LLMを作って汎用化しAPIを提供することで市場シェアを獲得しようとしています。中国の企業は米国に比べて資金調達の規模は小さいですが、人口が多くAIエンジニアも多いため、個別の会社に特化したLLMを作って利益をあげている企業が存在します。現状、日本では、受託開発という形で、米国製のLLMをAPIを通して利用してアプリケーションレイヤーで利益を上げようとするAI企業が多いと感じています。一方で今後日本においても、一部のAI企業は個社に提供していく形になると予想しています。米国と同じような大規模なLLMを作るのではなく、モデルサイズを抑えながらいかに性能を良いものを作るかというのが1つの戦い方ではないでしょうか。」

●生成AI導入のメリットは大きいが、難しさも

企業にとって、生成AIの導入のメリットは複数あります。1つは、生産性の向上です。生成AIを自分のアシスタントのように使うことで、業務スピードや効率が向上します。また社内規定、社内文書、ナレッジを生成AIに学習させることで、専用AIコンシェルジュができます。2つ目に、お客様満足度の向上です。お客様からの問い合わせを、AIチャットボットで対応するような事例も出てきています。生成AIを上手く活用する企業とそうでない企業では、今後大きな差がつくことになるでしょう。具体的な導入事例については、後編で紹介します。

一方で、生成AIの導入には注意すべきポイントがあります。生成AIは、その原理上、常に100%正確な回答を与えてくれるとは限りません。ハルシネーションと呼ばれる、誤った回答を返すこともあるのです。金氏は、生成AIを段階的に導入していくことが重要だと強調します。
「いきなり顧客など外部に向けたサービスに利用するのではなく、生成AIを使える業務、使えない業務を整理分類した上で、社内利用から段階的に導入していくことが大切です」 
例えば、ChatGPTを企業で導入する場合、ステップ1として社内での文書作成支援やブレインストーミングに活用し、ステップ2で社内の文書データを連携させて、組織専用GPTとして活用します。ステップ3として本格的な活用に向けた開発を行い、業務改革を進めるという手順で導入します。

ChatGPT導入・活用のステップ

ChatGPT導入・活用のステップ

企業が実際に生成AIを活用する上で問題点としてよく挙がるのが下記です。
・「生成AIをどの業務で使うのが最適か分からず、ステップ1に進めない」
この場合の解決方法は、企業上層部が自ら生成AIを触って生成AIを体験し、DXリーダーとして自社のユースケースを作っていくことが大切です。
・「生成AIを社内に導入してみたが、思ったより使われていない」
この場合は、生成AIが社内の情報を参照できるようにして、活用を推進することがポイントです。社内情報を参照する方法は、プロンプトに埋め込む、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成、信頼できる外部情報を基に生成AIで回答を生成することで、回答精度を向上させること)を利用するなどが挙げられます。社内で対応できない場合は、専門のベンダーに依頼することも検討します。

●あらゆる産業で生成AIの活用が始まっている

生成AIは、さまざまな業界で活用されています。
製造業では、製品設計やCADモデリングなどを生成AIによって自動化することで、製品開発のスピードを加速させる試みが行われています。医療やヘルスケア業界では、医療画像の自動解析による診断のサポート、新薬開発などに生成AIが活用されています。エンターテイメント業界では、音楽やアート、動画コンテンツの自動生成に生成AIが使われており、生成AIによる動画をMVに採用したミュージシャンも登場しています。法務業界では契約書作成や判例分析などに生成AIが活用されています。金融業界では、大手銀行や証券会社などを中心に文書検索や融資稟議書の作成支援、顧客対応支援、社内チャットボット、コールセンターなどに生成AIを活用するところが増えています。
生成AIは、業界ごとのニーズに合わせて多様に進化を続けています。技術の進化に伴い、今後もさらに活用事例が増えていくことでしょう。

後編では、金融業界における生成AIの活用状況、注意点などについて解説します。

図版出典 
東京大学 松尾・岩澤研究室

野村総合研究所「日本のChatGPT利用動向(2023年6月時点)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0622_1

(文責:ISBマーケティング株式会社)

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